浪速百鬼絵 正月の話 三十三話「ネジ巻き」より
一昨年の春のことである。秋口から神様がいろんなゼンマイを巻き直すと聞いた。神様は無量大数のゼンマイを人間時間で数十年に一度巻き直す。もし、巻き忘れるといろんなものが止まってしまうからである。
神様がゼンマイを巻き直すとどうなるのか? それについても聞いてみた。巻き直すといろんなものが、少しばかり早く動くというのだ。
ゼンマイのたわみがなくなり、本来の動きになると言う。前に巻き直した時は、IT革命ごときが起こった。神様によると今度の巻き直しでは、そうした変わり始めたことが、少しばかり早くなるらしい。確かに、昨年来、いろんなところでリモートやらMAやらが急速に動き出した。
手前どもは、それより前に神様の話を聞いていたので、リモート取材の話を幾人かの人に「どうだろうか?」と持ちかけ、社員も在宅勤務のテスト導入を決めていた。ゼンマイ巻きの前では、その方法に懐疑的な人もいたのは確かであった。
結局、神様のゼンマイ巻きがあったので、ゆっくり進んでいたものが、元の速度に戻った。リモート勤務など、2年ほど遅れたが、世に浸透した。道具や場所が変われば、必然的に仕事も変わる。人も変わるし、時代も変わる。
またひとつ、古き良き時代が生まれたと懐かしむ。