はじめに
営業職といえば、営業マンが一人で行動する単独営業をイメージする人が多いようです。しかし最近では、営業ノウハウの属人化を防ぐために、チーム営業を重視する企業が増えています。チーム営業にはさまざまなメリットがありますが、当然デメリットもあります。導入の仕方を間違えると、営業職の自由度を低下させ、組織内のコミュニケーションを悪化させるだけに終わるケースも考えられます。チーム営業を効果的に構築するためのポイントを今回は解説していきます。
チームづくりのポイント
チーム営業に取り組むためには、まずチーム体制自体を整える必要があります。体制づくりの具体的なポイントは以下の6点です。
- リーダーのビジョン
- 明確なゴール
- メンバーとの向き合い方
- チーム全体の仕組み化
- 仮説を立てられるチーム作り
- 現場目線と組織目線
それぞれ具体的に説明します。
リーダーがビジョンを掲げる
チーム全体でどこを目指すのか、具体的な方向性を定めるのがビジョンです。リーダーがビジョンを示すことで、営業チーム全体に統一感が生まれ、メンバー同士の連帯感が育まれます。ビジョンを構成するのは、次の5つの要素です。
- コアバリュー:チームの基盤となる信念
- パーパス:チームが組織の中で存在する理由
- ミッション:達成しようとしている目標
- ストラテジー:ミッション達成のための手段
- ゴール:短期的に達成するための目標
最終的なビジョンの策定はリーダーの役割ですが、上記の5要素はチームメンバー全員で話し合いながら、互いの共通基盤として言語化していくとよいでしょう。
ゴールを明確に定める
チーム全員で短期間に達成を目指す目標がゴールです。このゴールを明確化することで、取るべきアクションも具体的に定まります。チームのゴールを設定するためのポイントは次の7つです。
- チームの目標が会社や事業部の目標と連動していること
- 自分のチームや他のチームの目標が可視化されていること
- 目標が明確、かつ定量的に設定されていること
- 目標の達成度合いを具体的に測定できること
- 目標の達成難易度が容易すぎず、かつ力を尽くせば達成できる見込みがあること
- 目標を達成すべき期日が具体的に設定されていること
- 目標の実行すべき担当者が明確であること
あいまいなゴール設定では意味がないため、上記のポイントをもとに具体的に定め、チーム全体で共有しましょう。
メンバーとの向き合い方
チーム営業は、メンバー同士のチームワークが問われる手法です。そのためコミュニケーションを円滑にし、互いに情報共有しやすい環境を作るかがポイントになります。チーム内のコミュニケーション改善のために、次の5つのポイントに注意しましょう
- コミュニケーションの回数と時間を増やす
- お互いを尊重し、思いやれる仕組みを作る
- 良い情報だけでなく、悪い情報も言いやすい環境を日頃から整える
- できる限り多くの人が情報共有できる場所でのやり取りを意識する
- 重要な連絡は記録を残すためにテキストベースで行う
2の仕組みの一例としては、仕事の中で感じた「感謝」をカードに書き、感謝したい相手に送り合うサンクスカード制度などがあります。4については、ビジネスチャットなどを活用すると、重要な情報をテキストで残すこともできるため、便利です。
チーム全体を仕組み化する
属人性に頼らず営業力を高めるには、チーム全体の仕組み化が必要です。最終的な理想形は、誰が取り組んでも同じ結果が出せる方法の体系化といえるでしょう。そのためには以下の4ステップで仕組みを構築していく必要があります。
- 個人の業務内容を見える化する
- 誰が取り組んでも成果が出せるように標準化する
- 全員が情報共有できるマニュアル化を行う
- さらに効率的に取り組めるようにシステム化する
このフローに従えば、一定のパターンから選びながら進めていく業務や、誰が実施しても同じ成果を出せる業務を仕組み化できます。ただし、営業の場合はノウハウ全ての仕組み化は困難なため、仕組み化可能な部分とそうでない部分は切り分けて考えましょう。
仮説が立てられるチームにする
効果的なチーム営業のためには、メンバー全員が仮説を立てながら自律的に行動できる状態が理想です。仮説思考で顧客に対して提案型の営業が出来るチームは、成功事例や失敗事例の共有から営業の確度をどんどん高めていくことができます。
仮説思考法には、高い確度の仮説を1つだけ立てる方法と、複数の仮説を検証していく方法の2つがあります。チーム営業であれば、後者のほうが比較的取り組みやすいでしょう。
仮説を立てる際は、やみくもな推論では意味がありません。
- 十分なデータ検証や分析をもとに立てた仮説
- 自分が予定しているアクションに結びつく仮説
- 顧客の目線をより良い方向に向けられる仮説
このいずれかに該当する仮説を立てて、行動しながら検証していくことをおすすめします。
現場目線と組織目線を持つ
チーム営業では、現場目線と組織目線の両立が求められます。現場目線は通常、現在から1カ月先、長くて1年先程度の未来を見据えた行動を行う短期視点です。一方、組織目線では3~10年後の未来まで視野に入れて、会社全体の利益を考えます。会社経営者の目線と言い換えてもよいでしょう。現場の末端レベルでは、経営者目線は把握しづらいため、まずはそれぞれの視点が異なることを理解しておくだけでも構いません。ただし、自分のチームの働きが会社全体の中でどういった役割を担っているのかという点は、ぜひ日頃から意識しておくことをおすすめします。
チームで実践すべきこと
チーム営業で実践すべきことは多岐にわたります。特に実施したいアクションは以下の通りです。
- 顧客情報の共有化
- 営業プロセスの可視化
- 営業ノウハウの共有化
それぞれ、どのように取り組むべきか具体的な手法について解説します。
顧客情報の共有化
チーム営業の強みは、顧客情報を共有し、最大活用できることです。顧客に関するさまざまな情報を共有・蓄積することで、無駄なコミュニケーションを削減し、効果的な施策をスピーディに立案できます。また、悩みを一人で抱え込まずにすむため、顧客との間に生じたトラブルを迅速に解決できます。情報共有の方法はさまざまですが、Googleスプレッドシートやビジネスチャットなどの情報共有ツールを活用するケースが多いようです。
慣れるまでは面倒に感じられるかもしれませんが、チーム全体でぜひ情報共有のメリットに対する理解を深め、業務フローの中に情報共有を上手に組み込みましょう。
営業プロセスの可視化
チーム営業を行う際は、ぜひ営業プロセスを可視化しておきましょう。営業プロセスを可視化し、全体に共有しておくと、次のようなメリットがあります。
- 各フローで何が起こっているのかが分かり、改善もしやすくなる
- 評価基準が明確になる
- 属人的だったノウハウに再現性を持たせられる
営業プロセスの可視化は、一般的に以下の流れで行います。
- 各プロセスの内容を定義する
- それぞれの担当者にヒアリングし、詳細情報をまとめる
- システムを導入して、管理を集約する
営業ノウハウの共有化
互いに成果を競い合う営業職は、どうしてもノウハウが個人に蓄積されやすく、全体に共有されづらい傾向がありました。そのような属人的な状態の場合、企業は次のようなリスクを抱えてしまいます。
- 優秀な営業職の社員が離職した場合、蓄積されたノウハウが失われてしまう
- 成績が上がらない営業社員がモチベーションを失い離職しやすくなる
- 営業力・情報格差の拡大で組織全体の営業力が低下する
- 簡単に模倣できるはずの基本的なノウハウすら組織に蓄積できなくなる
こういったリスクを避けるためにも、営業ノウハウを共有化がチーム営業の基本です。ノウハウの共有化するには、CRM(顧客管理)システムやSFA(営業支援)ツール、社内Wikiなどの利用が便利です。まだ社内に仕組みがない場合はぜひ導入を検討しましょう。
まとめ
チーム営業の構築法のポイントをまとめると、以下の2点です。
- チーム営業のチーム体制を構築するためには、ビジョン・ゴール・メンバーとの向き合い方・仕組み化・仮説思考・現場目線と組織目線の両立の6点が重要である
- チーム営業を実践する場合、顧客情報の共有化や営業プロセスの可視化、そして営業ノウハウの共有化を行うべきである
単独営業にももちろんメリットはありますが、今後経営資源として営業ノウハウを組織全体の共有知に変えていくためにチーム営業がより重要になるでしょう。この記事の内容をチーム営業の推進に役立てていただければ幸いです。