はじめに
インターネット技術の普及により、競合他社と比較検討される機会が増えたことで、多くの業界では市場の生存競争が激化しています。自社の強みを活用しながら市場で生き残るためには、戦略にもとづく商品展開が不可欠です。今回は、自社の売上を今後伸ばし、市場での優位性を獲得していきたい人向けに、競合他社に打ち勝つ競争戦略のフレームワークを提唱したポーターの理論を紹介します。
競争優位の戦略とは(3つの戦略)
アメリカの経営学者、マイケル・ポーターは1985年に著書「競争の戦略」の中で、競合他社に対して優位なポジションを築くための3つの戦略を提唱しました。具体的には次の3種類です。
- コスト・リーダーシップ戦略
- 差別化戦略
- 集中戦略
ポーターの経営戦略論は、現代のマーケティングでも多用されている戦略のセオリーです。それぞれの戦略の内容について詳細をまとめました。
コスト・リーダーシップ
コスト・リーダーシップ戦略とは、商品の価格やコスト面で競合他社に対する優位性を築く戦略です。できる限り生産コストを抑え、競合他社よりも安価な価格で商品をリリースしつつ、利益を確保する必要があります。
この戦略を実現するためには、業務内容や作業工程の効率化と生産性の向上が不可欠です。時間あたりや作業員一人あたりの生産量を増やし、かつ削減できる固定費がないかを細かく検討します。低コストの生産体制を作ることができれば、販売価格を下げるだけではなく、場合によっては表面上の価格設定は変えることなく、より高い利益率をキープできるでしょう。コスト・リーダーシップを確立すると、業界のライバルに加え、新規参入者や顧客、サプライヤー、代替品に対する優位を築くことができます。
差別化
差別化戦略とは、価格やコスト面以外の自社商品の強みや特徴を磨き、競合他社が真似できないポジショニングを業界内で築いていく戦略です。差別化するための項目としては、主に以下のような項目が挙げられます。
- 商品の機能性
- 品質
- 技術力
- ブランドイメージ
- 顧客とのリレーションシップ
差別化戦略の場合、顧客目線からの商品価値を高めていく必要があります。そのため、顧客が何を価値と感じるのか、事前に詳細なリサーチが必要です。差別化戦略で特化する強みは、競合他社が模倣しにくい独自性がベストでしょう。もし安易に模倣できる強みだと、一時的に市場の優位を獲得しても、その地位が揺らぐ可能性が非常に高くなります。
集中
集中戦略には以下の2つの種類があります。
- コスト削減を図る「コスト集中戦略」
- 他社との差別化を図る「差別化集中戦略」
いずれもターゲットとなる顧客や市場を特定のセグメントに絞り、ヒト・モノ・カネそれぞれのリソースを集中的に投資する戦略です。あえてニッチな分野を狙うため、より少ないリソースでも市場の優位を獲得しやすく、資本力が少ない中小企業には向いています。ただし、
市場規模が小さな分、トレンドの変化など外的要因の影響を受けやすいなどのリスクもあるため、常日頃から市場の変化に対してアンテナを張っておくことが望ましいでしょう。
参入障壁とは
参入障壁とは、ある業界に新規参入しようとする会社にとってハードルとなる障害のことを指しています。代表例としては、次のような参入障壁があります。
- 既存企業の特性による優位性
- 行政の規約や法の規制
実は、ポーターの著書「競争の戦略」を読むと、後半のほとんどが参入障壁の分析と活用法に関する内容で占められています。ポーターの経営戦略論における参入障壁の考え方をまとめました。
7つの参入障壁とは
ポーターの理論によると、市場の参入障壁には以下の7種類があるといわれています。
- 規模の経済性
- 製品の差別化
- 巨額の投資
- 仕入先を変更するコスト
- 流通チャンネルの確保
- 規模とは無関係なコスト面の不利
- 政府の政策
これらの7種類が複合的に絡み合い、新規企業の参入ハードルの高さを決定づけています。
規模の経済性
すでにその市場に参入している企業の事業規模が大きくなればなるほど、新規参入に必要な投資の規模が大きくなります。この参入障壁を、規模の経済性と呼びます。別名スケールメリットともいいます。
製品の差別化
製品の差別化とは、既存企業のブランド力を指しています。たとえば携帯電話業界のiPhoneのように、既存企業のブランド力が強いと、新規参入してから競合に打ち勝つのは非常に困難でしょう。市場でブランディングするためには、労力や資金はもちろん、時間的コストをかけて「顧客から選ばれる理由」を構築する必要があるからです。
巨額の投資
たとえば通信業界や製薬業界などのように、巨額の設備投資や研究開発がなければ参入できない分野は参入障壁が高い市場といえるでしょう。実際、携帯業界に参入を試みました楽天モバイルは、参入後に多くの課題を抱えることとなりました。このような市場だと、資本が少ない中小企業は参入の検討すらできません。
仕入先を変更するコスト
仕入れが必要な業界の場合、既存の企業が仕入れルートを確保しているため、新規参入企業は新たにサプライヤーを確保する必要があります。特に仕入先の変更に大きなコストがかかる場合、新規参入企業にとっては参入障壁になっているといえるでしょう。
流通チャンネルの確保
既存企業の強みは、すでに一定の流通チャネルを確保していることです。流通チャネルとは 商品がメーカーから消費者へと流通する経路を指します。たとえば、物流用の倉庫や業者の手配などを新たに行う場合、非常にコストがかかります。オンラインでの販売だとしても、顧客リストの量を比較すると、どうしても既存企業が有利です。こうした流通チャネルの存在の参入障壁と考えられます。
規模とは無関係なコスト面の不利
たとえば特許技術のように既存企業が最新の技術を独占している場合、そういった技術を持たない企業は市場に参入できません。技術力を培うには時間やお金の投資を必要とするため、新規企業の参入を阻むハードルとなります。逆に言えば、現状の資本力が乏しくても特定の技術さえあれば参入できる業界もあるでしょう。
政府の政策
政府が決めた方針や法律もしばしば参入障壁となりえます。たとえば、医師や各種士業のように国家資格がないと開業すらできない専門職種や、金融業のように行政の許可が必要な業種は、それだけでも参入障壁になります。国の方針や政策は企業側からコントロールできないため、社会の変動に対して常にアンテナを張り、未来を予測しながら変化に備えておくべきでしょう。
5つの競争要因とは
ブルーオーシャン戦略に基づいて新たな市場を創造したケースをのぞき、ほとんどの市場では既存企業による参入障壁がある程度存在します。こうした参入障壁に対し、新規企業が競争で打ち勝つためには次の5つの要因を押さえておく必要があります。
- 「新規参入」が容易になる状態を創造する
- 「代替品」として既存品との置き換えを狙う
- 「供給業者」と他社の関係を破壊する
- 「買い手」を新たな商品に誘導する
- 「競争業者」の優位性を破壊する
最近では企業間のM&Aが活発になっています。たとえばすでに市場の中で流通チャネルや技術を確保している企業を買収すれば、既存企業の優位性をそのまま吸収することができます。
参入障壁の仕組みや攻略法を理解しておくと、市場でシェアを獲得し、競合との競争に打ち勝ちやすくなるのです。
まとめ
マイケル・ポーターの競争理論のポイントをまとめると、以下の通りです。
- 競争優位の戦略には「コスト・リーダーシップ戦略」「差別化戦略」「集中戦略」の3通りがあり、いずれも競合他社に打ち勝つための手法である。
- 参入障壁に対する理解を深めておくと、自社の市場の優位性の守り方や新規参入時の攻略ポイントがわかる
ポーターの理論は、企業事例と合わせて理解を深めると、自社の戦略の実践に活かしやすくなります。他の記事で企業事例もくわしく紹介していますので、ぜひそちらも参考にして頂ければ幸いです。