はじめに
市場が成熟し社会の変化も激しい現代は、今まで以上に顧客のニーズが読みづらい時代だといわれています。多様化する顧客のニーズに対し対応作に頭を悩ませている経営者も多いでしょう。これからの時代を生き抜いていく経営者に向けて、今回は多様化する顧客ニーズへの対応策のポイントを解説します。
顧客ニーズの対応方法の基本とは
顧客ニーズに対応するための基本は、以下の3ステップだといわれています。
- ニーズを引き出す
- ニーズを把握する
- ニーズに応える
この3ステップは大企業の戦略では、ベーシックな方法です。リソースが少ない企業の場合は、必ずしもこの3ステップ全てを行っているわけではありませんが、基本を知っておけば応用がききます。顧客ニーズの対応方法の基本を以下にまとめました。
ニーズを引き出す
顧客からニーズを引き出そうと思っても「なぜ自社商品を購入しようと思ったのか」という問いに対して返ってくる答えは、最初は顕在的な欲求であるウォンツです。そこからニーズを引き足すためには、「なぜ?」をくり返し尋ねる必要があります。たとえば次のように質問を重ね、欲求を深堀りしていきます。
- 「業務の効率化をしたい」「なぜ?」
- 「業務の社員がやめてしまったから」「なぜ?」
- 「事務員をあえて補填しないでおきたい」「なぜ?」
- 「人材採用にかかる経費を削減したい」
このやり取りでは、最初に見えていたウォンツとは異なり、人材採用の経費削減が顧客のニーズだとわかります。
ニーズを把握する
上記のようなやり取りを直接顧客と行えない場合は、インターネット上の情報やアンケートなどから収集した顧客データをもとに、顧客を分析し、仮説を立てながらニーズの把握を行います。
たとえばアンケートで「自社商品を購入した理由」を聞いたとしても、やはりウォンツしか返って来ない可能性が高いでしょう。そうした場合、他の分析データと組み合わせ、仮説と検証を重ねながら、顧客の深いニーズにフォーカスしていくことになります。ニーズの把握は、マーケティング施策を実行しながら、何度も見直しや修正を行うことも多いプロセスです。そのため、マーケティング担当者は常に顧客ニーズを探る糸口を求めて、顧客のデータや分析結果と向き合っています。
ニーズに応える
ある程度顧客のニーズがわかったら、自社の商品をニーズに合わせて改良したり、アフターサービスなどを工夫して対応したりといったやり方で、顧客のニーズに応えます。とはいえ、分析データやリサーチはあくまでも過去の結果にすぎません。刻一刻と時間が過ぎていく中で、顧客ニーズは変遷していきます。そのためニーズに応える際は、いつの時代も変わることがない「人間の根源的な欲求」から導き出した顧客のニーズを軸にするとよいでしょう。
たとえば、人間の幸福の基本は、「健康、お金、モテ」の3種だといわれています。こういった原理原則で変わりようがない欲求部分を軸にしておけば、大きな方向性を見誤る可能性を減らせるでしょう。
多様化対応戦略に活用できるツールとは
顧客のニーズに対応するための基本が分かったところで、多様化するニーズに対してどのように対応すべきか、具体的な手法やツールの検討に移りましょう。多様化するニーズに対応するためには、あえて顧客のパーソナルなデータに向き合う必要があります。具体的な実践方法を説明します。
One to Oneマーケティングを意識する
昨今の複雑化する顧客ニーズやマーケティング戦略のなかで、One to Oneマーケティングが注目されています。One to Oneマーケティングとは、「顧客ひとりひとりに合わせたマーケティング」という意味です。つまり、顧客全体に対する画一的なマーケティングではなく、顧客それぞれの興味関心に合わせて施策を展開するのです。One to Oneマーケティングの実現を助けてくれるツールとして、たとえばリターゲティング広告があります。一度自社のWebサイトに訪問した閲覧者にCookieを付与し、その顧客を追跡した上で、他のWebサイト上に広告を表示させる手法です。またAmazonなどのECサイトでは、過去の購入履歴からおすすめの商品をリコメンドしてくれます。このように個別のデータ分析にもとづいたアプローチを自動的に行えるマーケティングツールを導入すると、多様化するニーズにも対応しやすくなります。
CRMシステムの活用
営業マンが顧客へのアプローチを実践する場合、CRMツールを活用することで、顧客一人ひとりのパーソナルなデータに基づいた営業が展開できます。CRMとはCustomer Relationship Management(カスタマーリレーションシップマネージメント)の略であり、日本語に訳すと「顧客関係管理」です。
CRMツールの基本機能は、顧客情報の管理・顧客へのアプローチ機能・作業効率化機能の3点です。これらの機能を使いこなせば、顧客との良好な関係の構築・維持がしやすくなり、部署間での情報共有も容易に可能です。
カスタマーサポートツールの活用
コールセンターやカスタマーサポートなど顧客対応を行う部署では、カスタマーサポートツールを導入しているケースが増えています。カスタマーサポートツールとは、電話やメールで寄せられる顧客からの問い合わせや要望に対し、対応業務を効率化するサービスです。
その機能は大別して4つに分けられます。
- 顧客からの問い合わせ管理
- 顧客情報管理
- 顧客への回答支援
- 顧客やチーム内でのコミュニケーション支援
先述したCRMと同様に、顧客からの声を拾い上げ、部署を超えて共有できる仕組みを取り入れると、そこから見いだされるニーズの糸口を社内で検討しやすくなります。そうすれば、より仮説の精度を高めることができ、顧客ニーズにあった商品の開発や改良につながるのです。
SFAの活用
SFAとは、英語の「Sales Force Automation(セールス・フォース・オートメーション)」の略であり、営業を支援するためのツールです。CRMが顧客を見える化するツールだとするなら、SFAは、営業のプロセスを見える化し、生産効率を高めるツールだといえます。SFAには次のような機能が搭載されています。
- 顧客管理
- 案件管理
- 行動管理
- 予実管理
- レポート管理
企業の営業部門における情報及び業務プロセスを自動化するSFAは、営業活動に関連する情報全般をデータベース化して、蓄積・分析できるようになります。CRMと併用しながら、顧客のデータベースの充実化をはかり、顧客ニーズの分析に役立てましょう。
MAの活用
MAとは、「Marketing Automation(マーケティングオートメーション)」の略であり、マーケティング活動の自動化・効率化を実現するためのツールです。たとえばCRMやSFAなどで集めた顧客データをもとに、顧客へのコミュニケーション頻度や内容などを最適化し、ある程度はシステム任せで顧客とリレーションを築いてくれます。MAの主な機能は以下のとおりです。
- 見込み顧客情報の一元管理
- メールによる見込み顧客との継続的なコミュニケーション
- サービスを検討している顧客の抽出
ある程度の企業規模で、マーケティング活動を効率化したいときにはCRMやSFAなどと合わせてMAも導入を検討するとよいでしょう。
顧客ニーズは常に変化する
企業のさまざまな戦略は、「顧客のニーズありき」で設計するケースが多く見られます。顧客のニーズは確かに重要な要素ですが、それだけに目を向けると、自社の売上や収益の面だけではなく、顧客の視点からも望ましくない結果がもたらされることがあります。たとえば、顧客自身が自社の課題を見誤っている場合、顧客が本当に必要としているものはニーズ通りの商品ではないでしょう。時間が経過するにつれて、顧客のニーズはどんどん変化していきます。場合によっては顧客が本当に必要なものを教育して伝え、気づきを提供するところからスタートするケースもあるでしょう。顧客のニーズを決して決めつけることなく、常に変化しているものだと言うことを念頭に、マーケティング戦略を検討するとよいでしょう。
マスカスタマイゼーションへの対応も必要
現代では市場が成熟し、マスカスタマイゼーションの最終形態に向かっているといわれています。マスカスタマイゼーションとは「顧客がほしい時に、ほしいモノが手に入る」状態のことです。顧客の考えや嗜好は一人ひとり違い、欲しいものにも個人差があります。かつては大量生産大量消費だったトレンドが、今やテクノロジーの発展により、顧客が本来求めていたモノをよりパーソナルな形で次々に提供できるようになりました。そのため、顧客は本当にほしいモノを従来よりも自由に追い求めるのが当たり前になりました。そんな時代であることを念頭に、「顧客がほしいモノ」「顧客が必要としているモノ」に目を向け、変化していくニーズについていけるよう、常にリサーチと検証を続けましょう。
まとめ
顧客ニーズの多様化に対する対応のポイントをまとめると、以下のとおりです。
- 顧客ニーズはそのまま顧客に聞いても出てこないため、「なぜ?」という質問で深堀りしたり、データの分析から仮説・検証を重ねたりする必要がある
- 顧客ニーズに基づいた商品づくりは大切だが、反面顧客自身が本当に必要なモノを自覚していないケースもあるため、客観的な視点での見直しがしばしば必要である
- 顧客ニーズは常に変化するものだということを念頭に置いて、戦略やアクションプランを策定すべきである
顧客ニーズという考え方は古くからマーケティングで使われていますが、基本的な概念だからこそ、あつかいが難しい部分でもあります。顧客のデータと向き合いながら、ぜひ自社の顧客のニーズの研究を進めましょう。