はじめに
企業は、顧客のニーズに先回りして、優れた商品やサービスを提供できるようになるためには、顧客に関する事実を集めることが重要です。そのときに有効な手段として用いられるのが顧客インタビューです。また、顧客インタビューは、販促戦略を立てるときや新しい商品やサービスを開発するときなどに有用です。今回は、主にB to Bの視点から顧客インタビューの基礎知識や役割、やり方、進め方などをご紹介します。
顧客インタビューとは
顧客インタビュー調査とは、自社の商品やサービスを購入した顧客に対して、購入理由:なぜその商品を購入したのか、どの広告をみて決断したのか? 感想:その商品を使用したときはどうだったのか? などヒアリングをする調査のことです。顧客インタビュー調査をで、「どの媒体に広告を出せば効果が出るのか」「ホームページのデザインをどうするべきか」などの販促戦略を立てるときの参考にできます。また、「どのような商品が喜ばれるのか」というような、商品開発にも生かすことができます。そのほかに顧客の声を収集する手段としてアンケートもありますが、顧客の深い事実を得るには、比較的自由に情報を聞き取りやすい顧客インタビューが効果的で有効な手段といえます。
インタビューの一般的な流れ
一般的なインタビューの流れは以下の通りです。こちらでは、それぞれのポイントを解説します。
- 企画・構成を決定
- 取材先の選定
- 取材の交渉・依頼
- 取材準備・ヒアリングシート送付
- インタビュー・撮影
- 導入事例の制作・校正
企画・構成を決定
まず、インタビューの企画と構成を決めます。導入事例の場合では、読み手である見込み客になりうる企業が知りたいと思っている情報を盛り込む必要があります。そのため、企画段階で全体構成を固めておくことが重要です。その要素はいくつかありますが、下記の内容を参考に、あらかじめ骨子を組み立てておけば、インタビュー時に質問すべきことをつかみやすくなります。
- 導入企業の基本情報(業界・業種・従業員規模・地域など)
- 取材相手の基本情報(役職・部署・氏名など)
- 導入の背景(課題・ニーズ)
- 導入した決め手・理由
- 活用方法
- 活用した所感
- 導入の効果
- 今後の目標や展望
インタビュー先の選定と交渉
インタビュー先を選ぶポイントは、導入事例として注目や関心を集められるかという点です。注目や関心を集めるためのポイントは3つあります。
- 自社との共通点がある企業
- 自社が求めている成果を出している企業
- 知名度の高い企業
また、取材先を検討する上で、以下のポイントを意識することで導入事例による効果のアップが見込めます。
- 共通点を見いだせる企業なのか
- 導入による成果や変化を具体的に示せる企業なのか
インタビュー先の選定時に気をつけることは、担当者間で口頭での約束は取りつけたものの、のちに社内的NGが出て断られるというケースです。対応策として取材のお願いをするときは正式な依頼文をメールまたは文書で送り、承諾を得ることが重要です。
ヒアリングシートの作成と送付
取材先の承諾を得たら、質問予定項目を記載したヒアリングシートを作成し、取材先へ事前に送り、回答を記入してもらいます。事前に送付することで、取材先は当日、話すべきことを前もって整理できます。また、自社も前もって話の流れをイメージできます。先方に送付するヒアリングシートを作成するときは、以下のポイントに気をつけましょう。
- 取材先の負担を考慮して質問数は絞る
- 回答例を記載しておく
- あらかじめ定量面で欲しいデータも入れておく
- 返信締め切りを明確に記載しておく(取材日の数日前が目安)
事前に記入してもらったヒアリングシートの情報を把握し、内容を精査したうえで当日、使用する質問項目表を完成させましょう。
インタビューの実施
インタビューの当日は、まず持ち物として、ボイスレコーダーと質問項目表、メモの準備をして臨みます。このとき、ボイスレコーダーは1台ではなく、2台用意しましょう。もしくは、スマホでも構いません。なるべく万全な状態にして、当日はインタビューに集中できるように心がけましょう。そして、インタビューを行う前に、取材相手に今回の取材の主旨、導入事例の活用方法、タイムスケジュール、撮影と音声録音の許可などを先方との意識を合わせるために説明をしておきます。そして、インタビューは、基本的に事前に作成した質問項目表に沿って進めます。インタビュー時の重要なのは雰囲気づくりです。取材相手が緊張しないように雑談やアイスブレイクを入れながらインタビューを進めていきましょう。
インタビュー内容のまとめや考察
インタビューが終われば、内容をまとめます。まとめるときの留意点としては、3つあります。
- 目的に応じて、内容を精査
- 誰にむけてまとめるのかを精査
- 外部依頼のときは、レポートの活用方法を伝える
もし、インタビューの対象者が複数名いる場合は、一般的なまとめ方として、インタビュー対象者それぞれについて発言を整理して、まとめる方法があります。それぞれの対象者が発言した内容とそこから導かれる考察を、セットでまとめていきます。プロジェクトチーム内での共有レポートであれば、重要ポイントだけをまとめた事実ベースの簡易レポートでいいですが、もし上司や提案用のレポートであれば、事実ベースの記載に加え、次の具体的なアクションにつなげられるような自らの示唆や提言などを盛り込むようなまとめ方がよいでしょう。
顧客インタビューの目的
顧客インタビューの目的は、自社の商品やサービスを購入した顧客に対して、購入理由や利用時の感想を聞くだけではなく、次回の新しい商品やサービスを開発するために、顧客のインサイトを発見、把握することです。
インサイトの把握
インサイトとは、本人自身も気づいていない隠れた本音のことです。インサイトの発見が、新しい商品やサービスの開発につながります。インサイトを発見するためには、まず、現状を把握し、「本当はこうなのではないか」といった仮説を立てます。その上でインタビュー調査を設計し、インタビュー・探索を行う必要があります。もし、仮説を立てずに調査をすれば、広く浅い調査となり、インタビューの結果内容が薄く、インサイトに気づく可能性は低くなります。インサイトを引き出すことに長けているインタビュアーは、顧客の課題に対して的確に仮説を立て、改善に導くことを得意としています。インサイトを把握するためには、仮説構築スキルを向上させることが重要です。
導入事例のインタビュー
導入事例とは、既に商品・サービスを導入している顧客の「導入の決め手」や「活用している様子」を紹介するコンテンツです。実際の顧客がどう感じているかを伝えることができ、潜在見込み客の信頼が得られます。また、自社の製品やサービスが効果を発揮していることの証明にもなります。こうした導入事例を作るには、顧客へのインタビューの中で的確な質問をする必要があります。価値の高い情報を掘り下げて洞察を引き出せるような質問をチームで考えましょう。導入事例がまとまれば、たとえば営業担当者が活用できる導入事例集を作成しておくことをおすすめします。導入事例集を作ることで顧客へセールスするときの商品やサービスの説明に説得力が増し、成功率が高くなります。
製品・サービス調査のインタビュー
自社の商品やサービスによって顧客に満足してもらうためには、顧客がおかれている状況、や抱えているニーズ、利用したときの感想、反応などを把握し、商品やサービスの内容にフィードバックする調査が必要です。製品・サービス調査のインタビューでは、特定の商品やサービスの利用状況を顧客に再現してもらいつつ、その最中に、適宜、インタビューを行うことで、行動やその背景を把握できます。このようなインタビューをコンテキストインタビューといいます。この調査のデータは、要件やペルソナ、機能、アーキテクチャ、コンテンツ戦略などのデザインの選択肢を具体化するのに非常に重要です。そして、この手法の最大の強みの1つは、予期していなかったことが確認できることや、習慣化されて無視されるようになっていた下位レベルの詳細情報を明らかにできることです。
インタビューの方式
顧客インタビュー調査には、グループインタビューとデプスインタビューの2つの形式があります。商品やサービスの開発で顧客のインサイトを引き出すためには、グループインタビューやデプスインタビューといった定性調査が有効です。「なぜ?」「どうして?」「その理由は?」といった質問を繰り返すことで、インサイトの発見につながります。
デプスインタビュー
デプスインタビューとは、インタビュー対象者1名に対して、1対1でヒアリングをするインタビュー調査の方法です。デプスインタビューの特徴は、特定の内容に関して、じっくりと深掘りをしてヒアリングできます。そのため、人前ではなかなか本音を話せないようなプライベートなテーマに関して調査をするときなどに最適です。たとえば、金融商品や美容商品など、人前ではなかなか話しづらい内容を、プライバシーが守られた状況で深くしっかりと聞くことができます。また、自動車や不動産など、商品を認知してから購入するまでの検討期間が長い商品において、複雑な購買行動を把握するときにも向いています。
グループインタビュー
グループインタビューとは、インタビュー対象者を複数名集めて、設定したテーマについて話し合いをしてもらうインタビュー調査の方法です。集まってもらう人数は、一般的に5〜10名程度が適しています。グループインタビューの特徴は、参加者同士がお互いに意見を交わし、会話をすることによる相乗効果が働き、さまざまな観点からの幅広い意見や感想などを収集できます。グループインタビューを実施するときに重要なのは、その場の空気を読みながらうまく盛り上げたり、まとめたりできる司会役の存在です。司会役は、自社の商品やサービスに関する深い知識があることはもちろん、その場を盛り上げるためのファシリテーション能力やコミュニケーション能力などが求められます。司会役には、自社の商品やサービスのことを熟知していて、普段からお客様に接する機会が多い、ベテランの営業担当や販売員が適しています。
まとめ
顧客インタビューについてのまとめは以下の通りです。
- 顧客インタビュー調査は、顧客が自社の商品やサービスを購入した理由や利用時の感想を聞くだけでなく、顧客のインサイトを発見するために行う。
- 顧客インタビューは事前の準備と相手への配慮が重要。
- インタビューの形式は、自社が求めている内容によって変更する必要がある
顧客インタビューは、企業規模に関係なく、行う必要がある。時には、巨人の肩を借りて大手を取材相手に選ぶことも効果的です。本記事を参考にぜひ、顧客インタビューに取り組んでみてください。