はじめに
顧客の悩みや課題を引き出し、適切な営業提案を実施するためにしばしば行われるのが顧客ヒアリングです。ところが、顧客ヒアリングの効果を高めるためには、さまざまなコツがあり、何回経験しても上手く顧客から情報を聞き出せないという人もいます。今回は、顧客ヒアリングをより効果的に実践するためのポイントを解説します。
顧客ヒアリングとは
顧客ヒアリングとは、顧客の抱える悩みや課題を引き出し、適切な提案を行うために必要なプロセスです。顧客の話に耳を傾ける中で、質問を繰り返しながら潜在ニーズを深堀りすることもできるため、営業職やマーケティング担当者にとって特に重視すべき過程だといえるでしょう。基本的な流れは決まっているものの、顧客から情報を聞き出すためのスキルには個人差があり、顧客ヒアリングの成功率を高めるにはトレーニングが必要です。
顧客ヒアリングの進め方とは
営業ヒアリングの進め方は、通常次のような流れで行います。
- 雑談やアイスブレイク
- 現状の課題や悩みについて伺う
- その課題や悩みの解決に役立つ情報を提示する
- 相手の反応を見ながら、製品・サービスの提案を実施する
- 提案内容で「気になったところ、心配になったところ」などを確認する
- 次回の訪問や提案機会の取り付ける
人によってこの流れに自分なりの創意工夫を加えるケースもありますが、まずは基本の流れを押さえておきましょう。
ヒアリングの5つのコツ
顧客ヒアリングを成功させるには、次の5つのコツをあらかじめチェックしておきましょう。
- 事前リサーチ
- ヒアリングシート
- ペーシング
- Whyの深堀り
- オープンクエスチョンとクローズドクエスチョン
それぞれのポイントをくわしく説明します。
事前リサーチ
顧客ヒアリングを成功させるためには、丁寧な事前リサーチが欠かせません。あらかじめ顧客のデータや業界の最新情報を集め、顧客の困りごとや課題に対する仮説を立てておきましょう。そうすれば、ヒアリングの場面では、仮説と実際のズレを修正しながら話を展開できます。仮に事前に用意した仮説が間違えていたとしても、事前情報をきちんと知っておけば、他の糸口を見出すべく、話に切り込めます。顧客が発信しているSNSやブログなどの情報も非常に役立つため、ヒアリング前には最新情報にアップデートして臨みましょう。
ヒアリングシート
顧客ヒアリングの際に、必ず用意しておきたい資料がヒアリングシートです。顧客や市場の情報を集め、あらかじめ組み立てている仮説をベースに、顧客に投げかける質問項目を事前にまとめておきましょう。仮にヒアリングシートを用意していない場合、途中で話が逸れてしまったときに本筋に戻りづらくなったり、本来質問すべきだった項目を聞きそびれてしまったりといったトラブルが発生しやすくなります。ヒアリングシートは、全社に共通する普遍的な内容に加えて、相手顧客に合わせたパーソナルな項目を柔軟に追加できるようにしておくとよいでしょう。
ペーシング
ペーシングとは、会話のペースを相手に合わせるテクニックです。たとえば相手がゆっくりと話す人であれば、こちらも同じくらいペースをゆるめます。逆にある程度早口な人相手であれば、聞き取りづらくない範囲で、少しペースを早めましょう。こうしたペーシングを意識して行うと、相手の語尾にかぶせるような質問のリスクを防ぐことができます。また人間はペースがある程度近い人に好感を抱きやすいため、ペーシングを行うことで顧客からより多くの情報を引き出すことが出来ます。相手と会話のペースを合わせ、合間合間に相槌やうなずきなどを加えながら、顧客の話を引き出していきましょう。
Whyで深堀する
顧客のニーズを深堀りするためには、相手の本音部分を深堀りするために「Why(なぜ)」を活用するとよいでしょう。たとえば「自社商品を購入しようと思っている理由」を顧客に尋ねても、そのままでは表面上の欲求であるウォンツしか返ってきません。そのため、相手の言葉に対して、主体的に興味を持ちながら、「なぜそう思うのか」など、質問を投げかけながら相手の話をどんどん深堀していきましょう。ただし、「なぜ?」を繰り返しすぎると、顧客からすれば詰め寄られているような気分になるリスクも考えられます。立て続けに質問をするのではなく、相手の反応を観察しながらタイミングを見計らいましょう。
オープンクエスチョンとクローズドクエスチョン
顧客の話に興味関心を抱いていくと、「Why(なぜ)」以外にもさまざまな質問をしたくなるでしょう。質問には、オープンクエスチョンとクローズドクエスチョンの2種類があり、それぞれ用途別に使い分けると効果的です。
オープンクエスチョンとは、いわゆる自由回答の質問です。クローズドクエスチョンとはYe「はい」か「いいえ」で回答できる質問です。オープンクエスチョンだけだと全て答えるのがしんどくなりますし、逆にクローズドクエスチョンだけだと話が弾みません。これら2種類の質問をテンポよく会話に混ぜ込むことで、会話のリズムが生まれ、さらに顧客から情報を引き出しやすくなります。
顧客ヒアリングの3つの姿勢
顧客ヒアリングの際に、必ず心がけたい姿勢があります。それが以下の3点です。
- 「話すこと」ではなく「聞くこと」重視
- 相手を主語にして話す
- イメージできるように話す
それぞれ、どのような点を特に注意すべきかをまとめました。
「話すこと」ではなく「聞くこと」
人間はもともと、話したいという欲求を持っています。そのため、顧客ヒアリングを行っている際も、意識していないと顧客以上に自分が話してしまっていたというケースも十分起こりえます。顧客ヒアリングの目的は、相手の話を引き出すことです。そのため、自分が主に話すときは、相手から情報を聞く途中のプロセスといえるでしょう。相手からきちんと聞くためには、まず、事前のリサーチをもとに相手に対して積極的な興味関心を向けましょう。その上で、間を大切にしながら話しかけながら、聞き取りの比重を高めましょう。。
相手を主語にして話す
人は自分の関心のない話を聞こうとはしないものです。そのため、自分を主張するのではなく、相手を主語に切り替えて、相手に話をさせる流れを作りましょう。非常にシンプルな技法ですが、相手を主軸に展開することで、話を引き出しやすくなります。ただし全ての主語を相手にするのではなく、「私は~と思う」というI(自分)メッセージも定期的に入れ込みましょう。そうすることで、「私はあなたに興味を持っています」という姿勢をよりアピールできます。
イメージできるように話す
会話の中に専門用語や難しい知識が多い場合、話の内容がイメージしづらく、知らないうちにコミュニケーショントラブルが生じることがあります。そういったコミュニケーション齟齬を少しでも防ぐために、相手と話しながら必要に応じてビジュアルや動画などの資料を提示するとよいでしょう。もし資料の提示が難しい場合は、事例を話したり、簡単なたとえ話を組み込んだりすると、相手の理解度が高まります。また、コミュニケーショントラブルを防ぐ意味で「~ということで合っていますか」など、質問を投げかけながら双方の解釈ミスが起きていないか、チェックしながら話を進めていくとよいでしょう。
情報を引き出すテクニックとは
顧客から情報を引き出すためのテクニックとして、代表的な手法をいくつかご紹介すると、以下のとおりです。
- 業界でホットな話題やキーワードを投げかける
- 他社事例の話で流れをつくる
- 相手が回答しやすい質問をする
- 相手に役立ちそうな情報を伝える
- 相手が興味を持ちそうなエピソードを紹介する
こういった会話のテクニックに加えて、SPINヒアリングやBANTヒアリングの技法を身につけておくと、顧客との話が弾みやすくなります。それぞれのヒアリング手法の詳細も解説していきますので、今後顧客ヒアリングの機会が増える人はぜひ身につけておきましょう。
SPINヒアリングとは
SPINヒアリングとは、以下の4項目の頭文字をとったもので、イギリスの行動心理学者のニール・ラッカムが提唱した話法です。
- Situation(状況質問):例)現在どんな商品を使用していますか?
- Problem(問題質問):例)使用中のサービスにあったらうれしい機能やサービスはありますか?
- Implication(示唆質問):例)パフォーマンスが低下したままでは業務の効率化は難しくないですか?
- Need payoff(解決質問):例)〇〇という機能があるサービスに切り替えれば、業務効率化を図れると思いませんか?
これらはいずれも、事前リサーチに基づいて、営業活動の中で顧客に投げかけるべき問いだといわれています。これらの質問の目的は、顧客の潜在ニーズを引き出すことです。顧客自身に課題を気づいてもらうための質問なので、幅広い場面で使えます。
BANTヒアリングとは
BANTヒアリングとは、法人営業の基本質問のフレームワークです。以下の頭文字をとって、BANTヒアリングといいます。
- Budget(予算)
- Authority(決裁権/決裁者)
- Needs(必要性)
- Timeframe(導入時期)
上記の情報はいずれも法人営業に必要な項目ばかりなのですが、顧客の回答をそのまま事実として受け止めると、しばしば誤解が生じます。たとえば顧客が「予算がない」といったとして、本当に予算がないのか、購入したくないという思いを表すために嘘を言っているのか、判断を付けるのは困難です。理想としては、上記の項目を事前リサーチで確認しておき、会話しながらどの程度本当のことを話してくれるのか、確認できればベストでしょう。
まとめ
顧客ヒアリングを効果的に実施するためには以下のようなポイントを押さえておく必要があります。
顧客ヒアリングを行う際は、事前のリサーチやヒアリングシートの準備を徹底し、相手の話を聞くことに集中する
Why(なぜ)を含むオープンクエスチョンや、クローズドクエスチョンを取り入れ、相手の話をどんどん深堀りすべきである
SPINヒアリングやBANTヒアリングの型を活用し、より確度の高い情報を顧客から聞き出せるように努めるとよい
さまざまな場面で顧客ヒアリングの技法を活用できるケースは多いため、営業やマーケティングの部署はもちろん。その他の部署の方でも、今回ご紹介したポイントは習得しておくと後々役立ちます。ぜひ今回の記事を参考にしてください。