はじめに
既存顧客のエンゲージメントを高め、競合他社に離脱しにくいファンへに育成する施策は、企業経営の安定のために必須の戦略です。実際に多くの大企業が、顧客をファン化するさまざまな施策を打っています。自社の顧客を育ててファン化していきたい担当者の方に向けて、今回は顧客をファン化させる施策のポイントを解説します。
顧客のファン化とは
顧客のファン化とは、既存の顧客とのつながりを深め、自社やブランドを応援してくれるファンへと顧客を育成することを指します。通常の顧客が、商品を「使っているだけ」なのに対し、ファンはその企業やブランドに愛着を持って支援してくれます。そのため、他により価格や機能面で優れた商品が現れても、競合他社に目移りしない可能性が高いのです。ファンを育成すると、顧客のLTVが向上するほか、さまざまなメリットがあります。
顧客ファン化のポイントとは
顧客をファン化させるには、顧客満足や顧客体験を高めるための施策を打つ他、社内の従業員の教育を行い、そのモチベーションを高める施策も有効です。また、最近の顧客や市場の動向を鑑みるに、デジタル化への対応も必要でしょう。これらのポイントを、くわしく解説します。
満足度を高める施策を実施する
顧客をファン化させるには、商品の質はもちろんのこと、取り扱う店舗の雰囲気や、従業員の接客態度などあらゆる要素において、顧客の満足度を高める必要があります。そのためにまずは以下の3点をチェックしてみるとよいでしょう。
- 満足して頂きたい顧客像が明確か
- 自社の想定顧客がどんな「満足感」を求めているかを理解しているか
- 満足を提供する側の社内スタッフが仕事に満足しているか
くわしくは後述しますが、顧客満足度を高めるためには顧客への施策だけではなく、社内の人材育成にも注力する必要があります。よりよいサービスを提供して満足度を高めるには、さまざまな面で商品の改善を行い、顧客の期待値を超える必要があるのです。
従業員のモチベーションを高める
顧客を満足させるには、ESと呼ばれる従業員満足の度合いにも注意を払う必要があります。なぜなら、顧客に対する接客態度や店舗のムードを改善するためには、従業員がやりがいやモチベーションを感じながら、仕事に取り組める環境が求められるからです。従業員満足を高める施策には、大きく分けて次の3パターンがあります。
- 従業員からの意見を吸い上げて、改善点を見出し、実行する
- 個々人やチームの目標の明確化・具体化する
- 企業ビジョンを共有し、従業員の共感を得る
上記のような方向性で取り組みながら、従業員の体調やメンタルに配慮しつつ、働きやすい環境づくりを行いましょう。一見遠回りに思えますが、そうした地道な取り組みが、顧客満足へとつながります。
顧客体験に価値をつける
相手の想定を超えた顧客体験を提供し、感動を生み出すことができれば、顧客はファン化しやすくなります。もちろん感動レベルにまで顧客体験をブラッシュアップするには、一朝一夕の取り組みでは実現できません。顧客が求めていることや喜ぶことを常に考え、リサーチを重ね、顧客の声に耳を傾けながら改善を続けましょう。実際、たとえば高級ホテルのリッツカールトンにせよ、顧客体験にこだわってサービス改善を行ったメルセデス・ベンツにせよ、顧客体験の価値を高めるための施策は、細かな取り組みの積み重ねです。優れた顧客体験を作り出している企業の事例を参考にしつつ、自社のサービス改善をこつこつ行いましょう。
顧客体験にデジタル化は必須
顧客体験の価値を高めていくためには、今後デジタル化への対応は必須だといわれています。日本企業の約3割が課題としている顧客体験向上ですが、基本のコンセプトは「顧客に対して一気通貫でサービスを提供する」ということです。そのためには、企業内の部署同士で顧客のデータを共有・連携し、シームレスな対応を実施する必要があります。また、顧客体験を改善するためには、顧客とのタッチポイントを増やし、積極的に顧客の声を拾い上げる必要があります。リアルだけでは接点を用意するにもコストかかりすぎるため、顧客とのコミュニケーションを増やすためにもデジタル化は不可欠といえるでしょう。
顧客ファン化のメリットとは
顧客をファン化すると、具体的には次のようなメリットがあります。
- 費用対効果が高いマーケティングができる
- カスタマサポート化できる
- 良質なフィードバックを得やすくなる
それぞれのメリットについて、くわしく説明します。
費用対効果が高い
顧客をファン化するための取り組みは、いわゆる企業の全売上の8割を作り出す上位20%の顧客を育てていく施策と同義です。そのため、顧客全体の均一なマーケティングを実施するよりも費用対効果を高く、企業の売上や利益を増やせます。また、ファンとなってくれた顧客は、自社の商品を周囲に紹介してくれるケースが多く、広告宣伝費用をかけずに効果的なPRができます。質が高いクチコミの波及効果を考えても、顧客のファン化は費用対効果に優れているといえるでしょう。
カスタマサポート化
ファンマーケティングに取り組み、熱心なファンを増やすことができれば、顧客同士が商品の活用法や疑問点の解消を実施してくれる可能性が高く、カスタマサポートとしての活躍が期待できます。もちろん企業としての問い合わせ窓口は必要ですが、顧客同士の教え合いのほうが、顧客育成と問い合わせ対応を併用でき、コストを掛けずにサポートが循環する仕組みの構築へとつながります。また、特に熱心なファンであれば、自主的に商品・サービスの使い方や問題解決方法をSNSやYouTubeなどで紹介してくれるケースがあるため、宣伝や教育効果も含めてメリットが大きいといえます。
良質なフィードバックを集められる
顧客がファン化すると、「自分の好きな企業や商品がもっと改善してくれたらうれしい」「意見を取り入れてほしい」という欲求をもったファンから、良質なフィードバックをほぼコストゼロで収集することができます。通常、顧客からのフィードバックを得るためには、アンケートやインタビューを実施します。こうしたリサーチにはそれなりの時間や労力、そして資金面のコストが発生します。ところが、顧客がファン化すると、自主的にフィードバックを寄せてもらえるため、今後の商品開発や改良にも役立つ意見を収集しやすくなります。
ファン化を行う際の課題とは
多くのメリットが期待できる顧客のファン化ですが、実施するためにはいくつかの課題があります。それらの課題をあらかじめ視野に入れた上で、具体的なアクションプランを検討すべきでしょう。顧客のファン化の課題をまとめました。
ファン化までに長期的な視点が必要
顧客をファンにするためには、ある程度の時間がかかります。ファンマーケティングの目的は、熱狂的なファンを作り出すことです。そのためには、企業の商品・サービスの魅力的な見せ方を研究し、長期的なコミュニケーションをファンと取りながら、そのストーリーを強化していく必要があります。短期間では結果が出ないことを前提として、顧客の心を動かす魅力的な商品・サービスの提供や自社の揺るがないコンセプトの発信、ブランドイメージの向上などを多角的に取り組んでいく必要があります。
施策がルーチン化しやすくなる
企業の熱狂的なファンが一定数増えると、企業経営が安定する反面、一部の企業では事業が停滞し始めます。理由としては、ファンの存在に安心してしまい、将来的な衰退につながる現状維持を選んでしまうからです。このような油断が生じた企業では、多くの場合、顧客へのサポート体制や商品の質にトラブルが発生しやすくなり、顧客離れを起こしやすくなります。どれだけファンが育ったとしても、顧客層は必ず新陳代謝を起こすものです。したがって、ファンとのコミュニケーションを取りながら、そのニーズに耳を傾け、商品の改良や改善に努めていく姿勢を大事にすべきでしょう。
ファン化の施策とは
顧客をファン化するための施策としては、例えば次のような手法があります。
- コンテンツマーケティング
- オムニチャンネルの活用
それぞれの手法の内容を、よりくわしくご紹介します。
コンテンツマーケティング
コンテンツマーケティングとは、顧客の目線から役立つ情報を発信するためにオウンドメディアやSNSを運用する戦略のことです。コンテンツマーケティングの目的は、新規顧客の集客に加え、既存顧客とのコミュニケーションやブランディング構築などが挙げられます。コンテンツマーケティングは営業色が少ないため、顧客からの信頼を得やすく、ある程度時間をかけながら顧客を育成するためには有用な方法といえるでしょう。
近年では広告手法の効果が落ちてきており、プル型のメディアを運用するコンテンツマーケティングの価値に注目する企業が増えました。コンテンツマーケティングを導入し、ある程度長期的な先を見据えて、顧客とのコミュニケーション強化を行いましょう。
オムニチャネルの活用で接点を増やす
企業とユーザーの接点となるチャンネルを連携させ、顧客に対してシームレスなアプローチを可能にするオムニチャンネルは、近年のマーケティングでは非常に注目されている手法です。ECサイトやリアル店舗、アプリなどを連携させることで、顧客とのコミュニケーション頻度を増加させ滝行は、顧客の属性や購入履歴などのデータを集めて、商品開発や改良に役立てています。
ファンマーケティングを成功させるためには、特定のチャンネルだけに注力するよりも、SNS・オウンドメディア・イベントなどを連動させたオムニチャネル活用が効果的です。
まとめ
顧客をファン化させるための施策のポイントをまとめると、以下のとおりです。
- 顧客をファン化する施策は、企業経営を安定させるためには必須の戦略である
- 顧客のファン化推進のためには、顧客の満足度や顧客体験を向上させる外向きの施策のほか、従業員満足を高める内向きの施策も有効である
- 顧客ファン化の具体的な施策としては、コンテンツマーケティングやオムニチャンネルの活用が挙げられる
顧客のファン化を行うには、時間や労力、資金的なコストはかかります。しかし、その分リターンが大きいため、コストをかけてでも取り組むべき施策といえるでしょう。今回の記事を参考に、ぜひ顧客のファン化の施策を自社でもチャレンジしてみてはいかがでしょうか。