はじめに
顧客満足度(CS)が企業の経営改革において重要といわれて、20年以上経ちました。特に上場企業であれば、CS活動の専門部署を設けているところが大半です。しかし、いざ顧客満足とは何か? と尋ねられると、意外と即答できない人が多いのではないでしょうか。今回は、顧客満足度の定義やCS向上の取り組みの基礎を押さえておきましょう。
顧客満足度とは
顧客満足度とは、企業が提供する商品・サービスに対して顧客が満足している度合いを示す用語です。英語で書くと「customer satisfaction(カスタマー・サティスファクション)」であり、略してCSと呼ばれます。顧客満足度の上昇、下降を左右する要素として、併せて意識しておきたいのが顧客の期待値です。
顧客があらかじめ商品に対して抱いていた期待値を超えれば、自ずと満足度は高くなります。顧客の期待値は商品購入の前に決まってしまうため、商品をリリースする前から顧客満足度を高める施策を計画することはとても重要です。
現代では特に、SNSの口コミやGoogleマイビジネスのレビューなどを通じて、よい評価も悪い評価もあっという間に広まります。顧客満足度に対する取り組みは、今後の販売戦略においてより重要になるでしょう。
顧客ニーズを把握する4つの方法
顧客満足度を高めるためには、商品を購入する顧客のニーズを把握し、そのニーズをさらに満たす必要があります。売り手目線ではなく買い手目線から顧客の悩みや欲求を探ることをニーズ調査といいます。ニーズ調査を行うためには何をすればいいのか、代表的なリサーチ方法について次の通りまとめました。
自社サイトへのアクセスを分析する
顧客のニーズを探るために活用すべきデータの一つが、自社サイトのアクセス分析です。アクセス分析のデータからは、たとえば次のような顧客情報を得られます。
- 流入経路:検索エンジンや広告、SNS、リンクなど
- 顧客が使っている電子機器:パソコン、スマートフォン、タブレットなど
- 検索キーワード
- 顧客が離脱しがちなポイント(コンテンツなど)
- 顧客の目線が集中するポイント(ヒートマップなど)
特に注意したいのが、検索キーワードです。たとえば脂肪の燃焼をサポートする健康食品を取り扱っているサイトの例を考えてみましょう。顧客がよく用いる検索キーワードが「ダイエット」なのか「メタボ」なのかによって、顧客の商品やサービスへの期待が異なることが分かります。検索キーワードは顧客の期待値をそのまま表すため、顧客ニーズを探りたいときにはぜひ参考にしてみましょう。
アンケート調査を行う
顧客ニーズを正確につかむためには、顧客の声を直接聞く機会を作る必要があります。その方法の一つがアンケート調査です。特に、商品の開発や改良を行う際には、アンケートで調べた顧客の期待値を超えるような工夫をこらすことで、顧客満足度を高めやすくなります。質問項目の立て方によってアンケート調査の精度は異なり、特に自由回答の形式は、情報量が増える分、回答率が下がります。
アンケート調査の効率を高めるためには、協力者(回答者)に何かしらのプレゼントを用意しておくとよいでしょう。アンケートの回答と引き換えに限定のクーポンを発行したり、商品サンプルを提供したりといった企画を行うと、顧客への販促効果も期待できます。
また、最近ではインフルエンサーマーケティングを活用して、流行に敏感なインフルエンサーにアンケート調査を行う企業も増えています。
顧客インタビューを行う
アンケートだけでは深堀しきれない顧客のニーズを知るために、効果的な手法がインタビューです。対面やオンライン、電話にて顧客にヒアリングを行い、商品に対する期待値をフリートークから探っていきます。
商品に対する期待を顧客が直接的に教えてくれるとは限りませんが、話の内容だけではなく、言葉の選び方や声のトーンなどからも多くの情報を得ることができます。アンケートと合わせて、ぜひ定期的に実施したい調査です。
とはいえ、インタビュー調査にはコストがかかります。日頃から顧客の声に耳を傾けるためには、タッチポイントを要所要所で作っておくことが望ましいでしょう。たとえば企業内にコールセンターや問い合わせ窓口を設けていれば、質問や要望、苦情などの声が日々寄せられます。そういった情報を分析するだけでも、顧客満足度の向上に役立ちます。
統計データなど客観的な情報を集める
顧客ニーズは、社会の変化や市場の動向に左右されます。そのため、顧客満足度を高めるためには、マクロなデータにも着目すべきです。たとえば、自社の業界はこれから成長していく見込みなのか、それとも停滞・縮小していく可能性が高いのかによって、とるべき戦略は変わります。
仮に今後の成長が見込めない市場だとすれば、より多くの見込み顧客が待っている成長市場への参入を検討すべきです。
近年では社会の変化が激しく、急な経営判断を迫られるケースもあります。特にコロナ禍ではその傾向が顕著でした。飲食店や旅行業などリアルの接触をベースとしていた業界の企業は、顧客ニーズの変化に伴い、多くが非対面型のサービス導入に踏み切りました。そうして、顧客満足度を高め、低迷した売上の回復につなげたのです。
客観的なデータをもとに社会の変化を先読みする力は、これからより重要になっていくと考えられます。
顧客満足度を高める6つの施策
ここまでにご紹介した方法で顧客ニーズをつかんだら、顧客満足度を高めるための具体的な施策につなげていく必要があります。顧客満足度を高めるには、主に次の6つの施策をとることができます。
- 顧客の評価の見える化
- 顧客満足度のギャップ解消
- リピーター獲得
- 会員の入会促進
- 従業員満足度の向上
- コミュニケーションツールの活用
それぞれの内容をくわしく解説していきます。
自社の顧客の評価を見える化する
自社の商品に対して、顧客はどこに満足していて、どこに不満があるのかを可視化することで、顧客満足度を高めやすくなります。顧客の評価を可視化するためには、商品を使用した後のアンケートやヒアリングを徹底するのがポイントです。そうして見つかった顧客の不満を改良し、すでに満足している部分を商品の強みとしてより伸ばしていきます。
たとえば、もしフライパンを販売しているとして、顧客が「うまく調理ができず、焦げ付かせてしまう」といった不満を抱えているとします。その場合、次のような対策をとることができるでしょう。
- 焦げ付きにくい調理のポイントを発信し、顧客に伝える。
- フライパンの焦げを簡単に落とせるお手入れ方法をフォローする。
- 今後の商品開発で、より焦げ付かないフライパンを開発する。
施策によっては、ほとんどコストをかけずに対策することも可能です。「売って終わり」ではなく、「売った商品をどのように使ってもらうか」まで考えて、フォローすることで顧客満足度が高まります。
顧客満足度のギャップを埋める
期待値と満足度のギャップが大きいと、顧客満足度は大きく低下します。そのため顧客満足度を高めるためには、基準となる期待値をうまくコントロールするのがポイントです。
たとえば1000円でヘアカットを提供している格安の美容院・理容院では、ヘアカット以外のメニューを一切提供せず、店舗の装飾もシンプルに統一しています。清潔感を保ちつつも簡素な雰囲気を保つことで、コストカット効果だけではなく、顧客の期待値をコントロールしているのです。
企業によっては、同じ商品でも異なるブランド展開で顧客の期待値をコントロールしているケースがあります。たとえば、ドトールコーヒーと星野珈琲店は同じ母体が運営しているコーヒーショップですが、ブランドを完全に切り分けています。想定している顧客の期待値が全く異なるため、商品のラインナップや価格帯も異なるのです。
リピーターを獲得する施策をとる
企業の販売戦略において、リピーター獲得は非常に重要です。リピーターを獲得するためには、顧客に対する深い理解が必要です。出身地や誕生日、趣味・嗜好など、顧客一人ひとりに合わせたサービスの提供がリピート率を高めます。
たとえばAmazonのサイトでは、AIによって購入履歴やアクセス履歴が自動的に分析され、定期的におすすめ商品をオファーしてくれる仕組みがあります。こういった仕組みを取り入れることで、リピート率とともに顧客満足も高まっていきます。
AIの活用のほか、リピーター獲得の施策を組織立てて行うためには、CRM(顧客管理)を活用するとよいでしょう。CRM(Customer Relationship Management)とは、企業が収集した顧客情報を効率的かつ効果的に管理するための施策であり、最近ではアプリケーションとしてまとめられているサービスも多く登場しています。サービスによっては顧客名簿の管理やHPアクセスの解析、オンラインでのアンケート機能などが搭載されているため、こうしたサービスを利用すると個々の顧客に寄り添った対応を効率的に行いやすくなります。
会員の入会を促進する
近年流行になっているサブスクリプション型のサービスは、ニーズとかみ合えば顧客満足度の向上につながる施策です。ネットビジネスでは以前から使われていた手法ですが、最近では美容院のカットし放題や飲食店の月額制食べ放題のように店舗型ビジネスでもサブスクリプション型のサービスを導入するケースが増えてきました。
サブスクリプション制のサービスを成功させるには、顧客のニーズやメリットの見極めが肝心です。たとえば、女性専用の月額制のジム「カーブス」は、あえてダイエット目的の若い女性ではなく、弱ってきた足腰が気になる中高年層をメインターゲットとして価値を訴求し、会員を増やしました。
既存のサービスをやみくもに月額制に変えるのではなく、顧客にとってのメリットをしっかり訴求できる商品を設計しましょう。
従業員満足度を高める
特に接客業に顕著な傾向として、従業員の満足度が高まるとサービスの質が磨かれ、顧客満足度を高めることができます。従業員満足度が高くなると、企業にとって3つのメリットがあります。
- 生産性の向上
- 人材の確保や流出阻止
- 顧客満足度の向上
ハーズバーグの動機付け理論によると、人のモチベーションを高める要素は次の6つの要素から成り立っているといわれています。
- 目的と目標の達成
- 成果に対する承認
- 仕事内容に対する満足
- 仕事の権限や責任
- 昇進
- 自身の成長の実感
VORKERSが行った「2018年のサービス業界における顧客満足につながる社員満足ランキング」で5位を獲得したスターバックスの事例を見ると、従業員満足度を高めるために、素晴らしい接客を店員同士が認め合う仕組みや成果を給与にすぐ反映する制度が実際に導入されています。
職場の従業員満足度が低い場合、ハーズバーグの理論やスターバックスの取り組みを参考に社内体制を見直していくとよいでしょう。
SNSやアプリなどのコミュニケーションツールを活用する
スマホの普及によって、当たり前のように使われているSNSを活用すると、顧客満足度を高めることができます。SNSは宣伝媒体であり、顧客とのコミュニケーションツールでもあるからです。
一例をあげると、シャープ公式のTwitterは「中の人」の人柄が非常にわかりやすく、リプに対してもこまめに反応してくれる親しみやすさが人気です。フォロワー数は82万人を超えており、ツイートを見て新商品を購入したという顧客の声も多数寄せられています。
店舗型のビジネスであれば、SNSに加えて、店舗アプリの活用も視野に入れるとよいでしょう。既存のLINE公式アカウントを使うのも一つの方法ですが、ある程度の規模があるなら独自の店舗アプリの方が顧客を囲い込みやすくブランディングにも有利です。
まとめ
今回の記事の内容をまとめると、顧客満足度の意味やその戦略については次のような内容が分かりました。
- 顧客満足度は英語の略称でCSとも呼ばれている。顧客の期待値を超えた際に高まりやすいため、期待値のコントロールも重要。
- 顧客満足度を高めるためには、アンケート調査やデータ分析を通じて顧客ニーズをきちんと把握する必要がある。
- 顧客満足度を高める施策を立てる際は、顧客からの評価を可視化してから、社内外で着手できる具体的な改善案を検討していくとよい。
今回ご紹介した内容は、顧客満足度の基本的な考え方であり、どんな施策を立てるにしても役立つ土台部分です。ぜひ顧客ニーズの考え方と合わせて、マーケティングの基礎を復習したいときに今回の記事内容を役立ててください。
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