はじめに
本原稿では顧客ポートフォリの作成に必要な分類や方法について解説いています。
どのような業界でも、必ずVIPや上得意と呼ばれる優良顧客がいます。パレートの法則にあるとおり、優良顧客が生み出す利益は企業全体の売上の8割を占めるといわれています。優良顧客を増やすためには、既存の層を維持するのはもちろん、これから成長する顧客とのエンゲージを強化する必要があります。成長顧客を見極めるには、顧客ポートフォリオの作成が非常に有用です。
顧客ポートフォリオとは
顧客ポートフォリオとは、適切な顧客管理に用いるためのデータです。購買履歴やポジショニングなどでセグメントする場合や、顧客台帳として管理する場合があります。可視化するために図表が用いることもあります。
たとえば、横軸に売上高や購入量、縦軸に収益率をとったチャートを作ると、顧客の収益性や成長性を可視化することができます。これからエンゲージを強化すべき顧客の優先度を判断したり、優良顧客の動向の測定を行ったりするための判断材料と考えればよいでしょう。
顧客ポートフォリオの作り方としては、「CPM分析」と「RFM分析」がよく用いられます。それぞれの分析方法をくわしく解説します。
CPMによる分析方法
CPM分析とは、購買行動・経過日数・購入頻度を軸として、顧客層のアクティブ度合いを以下の10パターンを目安に区分けし、それぞれの層に対して戦略を考えていくための手法です。
- 初回現役客:設定した期間内に初回の購入実績がある顧客
- よちよち現役客:設定した期間内に2回以上の購入実績がある顧客
- コツコツ現役客:設定した金額内で、安定した購入をしている顧客
- 流行現役客:短期間で設定した金額以上の購入実績がある顧客
- 優良現役客:長期にわたり特定金額以上の購入実績がある顧客
- 初回離脱客:設定した期間内の初回の購入後、離脱した顧客
- よちよち離脱客:設定した期間内で2回以上購入実績があったが、離脱した顧客
- コツコツ離脱客:設定した期間内で安定したリピート購入はあったものの、離脱した顧客
- 流行離脱客:短期間で設定した金額以上の購入実績があったが、離脱した顧客
- 優良離脱客:長期にわたり特定金額以上の購入実績があッタにも関わらず、離脱した顧客
このうち、1~5がアクティブ、6~10が非アクティブの顧客です。それぞれの層に応じた顧客育成(ナーチャリング)法があり、たとえば次のような営業アプローチが考えられます。
- 初回現役客には、次回利用を促すためのクーポンやキャンペーン展開を仕掛ける。
- コツコツ離脱客にはアンケートを行い、商品改良に活かしながら、次回購入までのエンゲージメントを設計する。
特に企業にとっては、10の優良離脱顧客は大きな痛手です。5に該当する顧客の顧客体験をいかに高めていくかは営業戦略でも最重要項目の一つでしょう。
RFMによる分析方法
RFM分析とは、次の3つの指標をもとに顧客を段階的に分け、グループ化した上でそれぞれの性質にあったマーケティング施策を講じるための手法です。
この3つの指標で顧客を分類すると、次のような傾向が見えてきます。
- Recency :直近の購入はいつか
- Frequency:購入頻度はどの程度か
- Monetary:購入金額はいかほどか
この3つの指標で顧客を分類すると、次のような傾向が見えてきます。
- Rが高い顧客ほど、将来の収益に貢献する可能性が高い
- Rが低ければ、FやMが高くても他社へと離脱している可能性が高い
- Rが同じなら、Fが高いほど常連客になっている
- Rが同じなら、FやMが高いほど購買力がある顧客と見なせる
- ただし、RやFが高くても、Mが少ない顧客は購買力が低いと考えられる
- Fが低くMが高い顧客の場合、Rの高い方が良い顧客と考えられる
- Fが現状維持もしくは下がっている顧客は、他社へと離脱している可能性が高い
- RFMすべてが低い顧客は、注力しないという判断も検討
参考:奥瀬喜之 久保山哲二(2012)『経済・経営・商学のための「実践データ分析」』講談社
顧客ポートフォリオ分析の活用方法
CPM分析やRFM分析で見えてきた顧客のポジショニングは、そのままでは単なるデータでしかありません。具体的に現場で活用する方法は主に以下の4通りです。
- 囲い込み
- コミュニケーション
- 顧客育成
- 新規顧客の開発
それぞれ、実際にどのような使い方をするのか、具体的にまとめました。
顧客の囲い込み
先述したとおり、優良顧客や将来的に優良顧客になりそうな層を逃すと、企業は大きな損失をこうむります。そのため、特に優良顧客やその見込みが高い層を競合他社へと離脱させないような「囲い込み」が重要です。
一例として、携帯電話業界の囲い込み例を見てみましょう。携帯業界はどこもさまざまな施策を行っていますが、ほぼ全キャリアに共通しているのが「学割」やドコモのU25応援割のような「若年層向けの割引」です。携帯電話のキャリアの乗り換えはMNPによって簡単になりましたが、それでも一定数の人は手続きが面倒などの理由でキャリアを変更しない傾向があります。そのため、未成年の時点からユーザーを取り込むことで、長期間継続して利用料を支払い続けてくれる優良顧客を育て、囲い込むことができるのです。
顧客とのコミュニケーション
顧客ポートフォリオは、顧客とのコミュニケーションを改善するための判断材料の一つとしても使えます。顧客とのリレーションシップを向上させるには、コミュニケーション頻度と内容の判断が問われます。お客様一人ひとり、連絡方法の好みやちょうどよいと感じる連絡頻度は異なります。しかし、一般的に優良顧客と呼ばれる層ほど「特別に扱われたい」という欲求を持っているものです。顧客ポートフォリオを作成すると、顧客ごとのポジションが明らかになるため、「最近連絡がおろそかになっていた優良顧客」や「購入頻度が落ちている常連客」などを見落としません。もしそういった顧客の存在に気づいたら、速やかにコミュニケーションをとり、顧客の反応を丁寧に観察するとよいでしょう。
顧客の育成(ナーチャリング)
CPM分析でいうアクティブな顧客を1から徐々に段階を上げていき、購入頻度や購入額が多い優良現役客まで育てていくのが顧客育成(ナーチャリング)の目的です。顧客ポートフォリオの作成は、顧客育成の効果を改善・向上してくれる効果があります。
どれだけ優良な顧客であっても、よりよい商品やサービスを提供する企業があれば、他社へと移行する可能性を秘めています。また、自社からのコミュニケーション頻度や内容に不備があれば、蓄積された不満から離脱するリスクもありえます。
こうした危機を回避し、自社と顧客双方にとってWin-Winの関係を長期的に構築していくためには、まず顧客ポートフォリオをもとに現状の顧客全体の動向を知る必要があります。定期的にポートフォリオを更新すれば、顧客育成の効果の度合いを測定でき、PDCAを回せます。
新規顧客の開発
顧客ポートフォリオは既存顧客にだけ使うものではありません。これから新規顧客を開拓するときにも、ぜひ活用いただきたいツール(フレームワーク)です。
たとえば、顧客ポートフォリオの中で優良顧客やいずれ優良顧客に成長してくれそうな層の顧客に分類される人には何かしらの共通点がないでしょうか。
- 優良顧客は、自社の商品のどんなところが気に入っているのだろうか?
- 優良顧客から見た自社の魅力とはどんなところだろうか?
顧客のニーズやインサイトに関わる問いの答えを実際に顧客から集めていくと、自社ブランドの訴求すべき強みがはっきりしてきます。なぜなら、これらの答えは優良顧客が自社に対して抱いている期待であり、その期待に沿ったメッセージを発信することで、同じように将来的には優良顧客になりうる新規顧客を開発できるからです。優良顧客に対するコミュニケーションも兼ねて、ぜひリサーチを実施することをおすすめします。
まとめ
顧客ポートフォリオの作成法、そして活用法についてポイントをまとめると、以下の通りです。
- 顧客ポートフォリオは、CPM分析・RFM分析の2種類を活用して、顧客の収益性や成長性を可視化する図である
- 顧客ポートフォリオは既存顧客に対する営業やコミュニケーションの見直しだけではなく、新規顧客の開発にも活用できる
顧客ポートフォリオは最初から完璧なものを作る必要はありません。まずはCPMとRFM、2つの分析を使いながら顧客のデータと向き合うプロセス自体に意味があります。たとえば優良顧客へのアプローチをなんとなく感覚で行っているような場合、非常に役立つツールですので、ぜひ今回の記事を参考に取り入れてみてください。
原稿は「顧客を増やす方程式」に掲載しています。サイトではファンマーケティングやBtoBマーケティング、新規顧客の獲得、差別化などの記事をラインナップしています。