顧客創造

顧客創造をデザイン思考で実践する

顧客創造
企業の目的は顧客を作り出すことである。

はじめに

2010年頃から、現代の社会情勢を指して「VUCA(ブーカ)時代」という用語が使われるようになりました。テクノロジーの進化によって、社会の構造がより複雑さを増し、将来の予測が難しい状況を表す言葉です。これまでの常識が通用しない不確実な自体に、多くの企業は新たな市場を創り出すこと、つまり何かしらのイノベーションが求められています。イノベーションを生み出すための考え方として、注目されているのが「デザイン思考」です。今回は、顧客創造とデザイン思考の考え方について、基本からわかりやすくまとめました。

顧客創造とは

顧客創造の由来は、ピーター・ドラッカーの名著「創造する経営者」の内容がもとになっています。ドラッカーは、20世紀から21世紀にかけて経済界に最も影響力のあった経営思想家であり、別名マネジメントの父とも呼ばれています。その著書には、次のようなことが記されています。

  • 組織の果たすべき役割の第一は「組織の目的と使命を果たすこと」である
  • 企業の目的の定義は「顧客を創造すること(create a customer)」

多くの企業が重視している「顧客満足」ですが、ドラッカーはそれだけでは不十分だと指摘しています。なぜなら、顧客自身が自分の欲求を理解しておらず、潜在的なニーズやインサイトの部分にアプローチするためには、売り手側が顧客と向き合いながら洞察していく必要があるからです。

眼鏡業界の例を上げると、従来は視力矯正のツールだった商品をファッションアイテムとして訴求することで、顧客層の拡大に成功しました。まさに顧客創造の好例でしょう。

顧客創造の4つの戦略とは

眼鏡業界の事例を見てもわかるとおり、既存の商品の見せ方や売り方を変えるだけでも顧客創造は可能です。新市場を開拓するイノベーションには、商品開発をイメージしがちですが、より省コストで始められる取り組みも視野に入れておくべきです。この章では、商品をセールスする際の訴求点探しとしても有用な、顧客創造の戦略について具体的に解説します。

顧客に想像以上のメリットをもたらす効用戦略とは

効用戦略とは、顧客が望んでいた以上のメリットを提供する手法です。単純に商品やサービスの機能を追加するのではなく、「顧客が本当に求めていること」に合わせて商品を改良していく必要があります。

たとえば、無印良品はあえて商品の機能を削ぎ落とし、「『これがいい』ではなく『これでいい』の商品作り」を目指しました。余白を大切にした簡潔な商品作りは、無駄な機能がたくさん付いた製品にうんざりしていた顧客の心理に響き、数々のヒットを生み出しています。無印良品の商品は必ずしも安価ではありませんが、そのブランドコンセプト自体が顧客にとっての「効用」になっているのです。

もちろん顧客によってはより高い機能を求めているケースもあります。しかし、その欲求が本質的なものなのかどうかは、商品開発を行う前に十分に検討すべきでしょう。

トータルで利益率を高める価格戦略

価格戦略とは、プライスコントロールにより、競合他社より有利な地位を築くことです。たとえば、初回の購入や体験のみ顧客が思わず買いたくなるような安価または無料に設定し、その後の継続利用で企業利益につなげる手法です。この手法には次のようないくつかのパターンがあります。

  1. 本体の導入価格を抑えて、付属の消耗品代やメンテナンス費用で利益を出す方法
  2. 初回体験を0円もしくは非常に安価に設定し、継続的な契約につなげて利益を出す方法
  3. 初回を安価に設定し、その商品ないしは類似商品の継続購入につなげて利益を出す方法

1の例はプリンターがわかりやすいでしょう。本体代が安い分、インクやトナー代など必須となる付属品の購入や定期メンテナンスサービスによって利益を出しています。2の事例はたとえば、パーソナルジムやスポーツクラブなどの体験型サービスやYouTube Premiumのようなサブスクリプションサービスでよく使われています。3については、健康食品の「やずや」や無料お試しセットのCMでおなじみの高級化粧品「ドモホルン・リンクル」などが好例です。

顧客の購買力に合わせる事情戦略

顧客のなかには、その商品が欲しくても購買力が不足している人もいます。そういった人のお財布事情に合わせて、幅広い価格帯や支払い方法を用意する方法を事情戦略といいます。たとえば、クレジットカードの対応に加えて、金利の低い自社ローンまで用意しているエステサロンはその典型例です。事情戦略を採用する際は、ブランドイメージを損ねないようにする配慮が必要です。その点、宝飾品を取り扱うティファニーは非常に優れた戦略を展開しています。同じデザインでもプラチナ・シルバーなど使用している金属素材ごとに異なる価格帯の商品を用意することで、幅広い顧客にアプローチしながらも、安売りしない自社ブランドを保っているのです。

顧客の将来を見越した価値戦略

価値戦略とは、顧客が商品を購入した先の展開をイメージし、「顧客がしたいこと」に合ったオプションサービスや追加商品を提供する方法です。引っ越し業者の事例を考えてみましょう。引っ越し業者に依頼するとき、「顧客がしたいこと」としては次のような内容が想定されます。

  1. できるだけ安く引っ越しを終わらせたい
  2. なるべく手間を少なくして、引っ越し疲れを軽減したい
  3. 大事な荷物を安心して運びたい
  4. スムーズに退去して、新居での生活を早く始めたい

1~4の顧客ニーズに対応する価値戦略としては次のようなサービスを提案できるでしょう。

  1. 繁忙期や時間帯指定を避けての引っ越し提案
  2. 家具や家財の梱包サービス
  3. 貴重品の特別輸送
  4. 退去時のトラブルサポートや新居での水回りトラブル対応 など

1については企業利益が下がってしまうと考えがちですが、顧客のニーズが満たされ満足度が高まった分、2~4のようなサービスを追加で受注する可能性があります。また、企業イメージの向上にもつながるでしょう。

P.Fドラッガーの著書から4つの戦略を学ぶ

顧客創造という考え方を生み出したドラッカーは、その由来となった本以外にも数多くの名著を生み出しています。その中でも、特に顧客創造の観点から示唆深いのが「イノベーションと企業家精神」です。この本には、才能やひらめきに頼らずに誰もがイノベーションを実行できるように体系化した世界初の方法論が記されています。イノベーションの機会を見いだす方法として、ドラッカーは同書の中で以下の7つを挙げています。

  1. 予期せぬ成功と失敗を利用する
  2. ギャップを探す
  3. ニーズを見つける
  4. 産業構造の変化を知る
  5. 人口構造の変化に着目する
  6. 認識の変化をとらえる
  7. 新しい知識を活用する

このうち1~4は組織や産業の内部、そして5~7は外部の事象を表しています。

私たちは漠然と、顧客を創造するイノベーションは大掛かりなものだと思い込みがちです。しかしドラッカーは、気付きのきっかけ自体は至るところにあり、「なぜ、私には思いつかなかったんだろう」と思われるものこそが最高のイノベーションであると主張しています。

常日頃からアンテナを巡らせ、幅広い情報をインプットしておく準備なしでは、顧客創造やイノベーションは決して成り立ちません。

顧客創造を実現するデザイン思考とは

日々の情報収集によって集まったデータを整理し、具体的な顧客創造の戦略プランに落とし込む際に必要なのがデザイン思考です。デザイン思考とは、前例のない課題や未知の問題に対してデザイナーやクリエイターが業務で使う思考プロセスを活用し、最適な解決を図る手法です。ユーザーも気づかない本質的なニーズを見つけ、変革させていくイノベーション思考とも言いかえられます。

デザイン思考は次の5ステップで構成されています。

  1. 観察・共感(Empathize)
  2. 定義(Define)
  3. 概念化(Ideate)
  4. 試作(Prototype)
  5. テスト(Test)

それぞれのフェーズについて、具体例を出しながらわかりやすく説明します。

観察・共感(Empathize)

デザイン思考は、ユーザーが求めているものは何なのか、その本質的な欲求について顧客の心理や思考に共感しながら、理解を深めていくリサーチから始まります。以下の手法を用いるのが一般的です。

  • インタビュー調査
  • アンケート調査
  • 行動観察調査(エスノグラフィー)

なここで注意すべき点は、顧客の顕在ニーズだけに目を向けないことです。より深い部分の欲求である潜在ニーズやインサイトまでしっかりと洞察を加える必要があります。そのため、顧客が発した言葉に対して「なぜ?」を活用して深堀りを行ったり、その背景にある「言えない本音」「気づいていない欲求」の仮説を検証したりしながら、調査を進めます。注意点は顧客(ユーザー)に話させるのではなく、調査員が洞察を行い、まだ行動に表れていないことを推測することです。

定義(Define)

ある程度リサーチが終わった段階で、それまでの調査や仮説検証の結果をもとに、ユーザーのニーズを定義します。通常このフェーズは、1の観察・共感とある程度並行して進めていきます。

たとえば、2021年のグッドデザイン・ベスト100に選ばれた大栗紙工株式会社の「目にやさしいノート」は、発達障がいを抱えるユーザーが既存のノートに抱いている不満を聞き取った結果、生み出された商品です。「光の反射が眩しい」「罫線が識別しにくい」「余計な情報が気になる」といった悩みを顧客の声から抽出し「目にやさしく見やすいノートがほしい」をニーズ(インサイト)として定義しています。障がいを持たない人からはイメージしにくい課題を丁寧にヒアリングし課題を言語化できたからこそ、開発できた事例です。

概念化(Ideate)

ユーザーのニーズを定義できたら、次は概念化です。ブレーンストーミングなどの手法を用いて、顧客のニーズを解決するためのアイデアやアプローチ手法を具体的に決めていきます。先ほどの大栗紙工株式会社の「目にやさしいノート」であれば

  • 光の反射がまぶしい➔中紙に色上質紙を採用
  • 罫線が識別しにくい➔まほら独自の罫線考案
  • 余計な情報が気になる➔無駄な要素をなくしたシンプル設計

というように、顧客の悩みに対応した解決策を商品設計に練り込んでいます。ただし、商品デザインを決定するまでは、アイデアをいくつも出すことが重要です。いったん制限を全て取り払い、アイデアが出し尽くしたところから、新たな顧客創造につながる商品のタネが生まれます。

試作(Prototype)

アイデアが固まったら、試作品を作成します。サービスであれば手法となります。この段階では時間やコストをできるだけ抑え、スピード重視で「まずは形を作る」ことだけを意識するとよいでしょう。実際に商品が形になると、アイデア段階では気づかなかった課題が見えてきます。

試作段階から何事もなく次のフェーズに進むことはほぼ100%ありません。たとえば、ユニバーサルデザイン賞を受賞しテレビなどでも取り上げられた表裏のない下着を作るHONESTIES株式会社は、通常の下着の10倍以上、試作を繰り返して商品開発をしているといいます。

試作と、後述するテストの両方を丁寧に行うことで、顧客のニーズを本当の意味で実現するイノベーティブな商品の完成に近づいていきます。

テスト(Test)  

試作品ができたら、自社内はもちろんのこと、想定する顧客層の人を対象にユーザーテストを繰り返します。このテスト段階で上がってきたフィードバックをもとにアイデアを練り直し、さらに試作を行います。試作品の改良に加えて、場合によっては以下のような見直しも合わせて行います。

  • 事前に定義したユーザーのニーズや概念化は適切だったのか
  • 見落としている顧客ニーズはないか
  • 試作のプロセスをより効率的にできないか

商品によっては耐久度や色落ちなどもチェックする必要があるため、このフェーズは最も時間とコストがかかります。しかし、商品の品質を高めるためには、絶対に手抜きができない部分でもあります。

開発段階で顧客を上手く巻き込むと、商品リリース後に顧客ロイヤルティを高めることができ、ブランドのファン増加にも貢献できます。

イノベーションを起こす顧客創造とデザイン思考の融合

売り手の「作りたい」ではなく、顧客の「ほしい」に基づくデザイン思考。この考え方は、顧客の新しい満足を創り出すイノベーションには不可欠な視点です。とはいえ、デザイン思考だけではビジネスは成り立ちません。どれだけよい商品であっても、顧客に認知されてから購入までの流れを組み立てなければ、モノやサービスであふれている現代社会では利益を得られないからです。マーケティングとイノベーションはまさに両輪であり、この両者を結びつけるためにも「顧客創造」と「デザイン思考」をもっと融合させていくべきといえます。そのために必要な概念を整理してお伝えします。

マーケティングとイノベーション

あらためてマーケティングとイノベーション、それぞれの役割の違いを明確にしておきましょう。それぞれの定義をシンプルにまとめると次のようにいえるでしょう。

  • マーケティング:顧客の欲求を理解し利益をあげるための考え方や仕組み
  • イノベーション:新しい価値を生み出す事象

特にマーケティングの定義は非常に幅広く、分かりづらいのですが、根幹にあるのが「顧客」であることは間違いありません。Google社のCEO、エリック・シュミット氏は「成功した会社」の要因を以下の3つにまとめました。

  1. 問題を全く新しい方法で解決する
  2. その解決法を生かして急速に成長・拡大する
  3. 成功の最大の要因はプロダクト(出来上がったもの)である

1はイノベーション、そして2はマーケティング、そして3はその両方が融合した結果と見ることができます。企業の成功にイノベーションとマーケティングが両方とも欠かせないことは、シュミット氏の言葉からも明らかです。

マーケティングとイノベーションに共通しているのは、「何を」「誰に」「どうやって」が重要ということです。これらの3要素を自社の状況に合わせてブラッシュアップするために、顧客創造のセオリーとデザイン思考をぜひ上手く組み合わせましょう。

組織とイノベーション

イノベーションとマーケティングはどちらも、主導を握るトップの力はもちろんのこと、組織全体で一丸となって取り組むための体制作りが重要です。

ボストンコンサルティンググループが2021年に実施した調査によると、イノベーションの準備が整っていない企業には2つの大きな課題があることが示されました。

  1. 経営陣自らがイノベーションをリードできていない
  2. 研究開発部門と顧客担当部門(事業開発、マーケティング、営業など)の間の断絶

2はまさに、イノベーションとマーケティングが両軸として機能していない状態といえるでしょう。

Appleやトヨタなど、世界的なイノベーション企業を観察すると、以下の6要素が共通していることが過去の研究で示されています。

  • 明確なビジョンと視座
  • 人材の多様性
  • 上下間の風通しの良さ
  • ネットワーク密度の高さ
  • 失敗に寛容な文化
  • 組織における遊びの存在

組織全体が目指す未来の方向性が統一されていること、そして多様な人材が失敗を恐れず挑戦できる風土が整っていることが、イノベーションの鍵といえるでしょう。

優れたマーケティングとイノベーションを両立させ、これから企業を反映させていくためには、組織のトップ自らが会社の社風を変えていく必要があるのです。

まとめ

顧客創造とデザイン思考について、今回の記事で解説した内容のポイントを以下の3点にまとめました。

  • 市場とは顧客の集合であり、これから企業が存続するためには顧客を創造していく必要がある。顧客創造には「効用」「事情」「価格」「価値」と4つのマーケティング戦略がある。
  • デザイン思考とは、ユーザーニーズを軸とした商品作りの思考であり、イノベーションを生み出すきっかけとなる考え方である。
  • イノベーションとマーケティングは両軸であり、そのためには顧客創造のセオリーとデザイン思考を融合させることが望ましい。

他国と比べ、日本企業はイノベーションへの投資意欲や仕組みの成熟度が低いと言われています。これからどんどん変化が激しくなる国際社会で生き残っていくために、ぜひ今回の記事の内容を参考に、社内体制の見直しや顧客への提案改善を進めてみてください。

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