日本語には、日常的に使われる言葉が、実は本来の意味とは異なる文脈で使われていることが多々あります。その中でも「確信犯」という言葉は、その代表格と言えるでしょう。日常会話やメディアで使われる「確信犯」という表現と、法律的な意味での「確信犯」は大きく異なり、混同されがちです。そして、「確信的犯行」という表現もまた誤解を招きやすい言葉の一つです。本稿では、この二つの用語の違いについて解説し、それぞれの正しい意味を理解することの重要性について考えていきます。
確信犯の本来の意味
まず、「確信犯」の本来の意味について説明しましょう。法律用語としての「確信犯」とは、ある行為が違法であることを知りつつも、自分の信念や価値観に基づいてその行為を行う犯罪者を指します。つまり、行為者はその行動が法に反することを認識していますが、それ以上に自分の信念や道徳的価値観に従って行動するため、罪の意識を感じていない場合が多いです。
「確信犯」という言葉は、ドイツの刑法学者ハンス・ヴェルツェルの理論に由来しており、刑法においては「信念に基づく犯行」として位置づけられています。具体的には、宗教的な信条や政治的な信念に基づいて行われる行為がこれに該当することが多いです。例えば、ある宗教団体の教えに従って法律に反する行動をとった場合や、政治的な理念に基づいて法律を破る行動を行うことが「確信犯」として扱われることがあります。
日常的な意味での「確信犯」
一方、現代の日本における日常会話では、「確信犯」という言葉が少し違った意味で使われています。多くの場合、人々は「確信犯」という言葉を「自分の行動が悪いと分かっていながら、それを意図的に行う人」というニュアンスで用いています。例えば、友人が悪ふざけをして何かトラブルを起こし、それがわざとであった場合に「あいつは確信犯だね」と言うことがあるでしょう。
この使い方では、犯人は自身の行為が問題になると分かっていながらも、あえてそれを実行したという意味が込められています。しかし、これは本来の意味での「確信犯」とは異なり、むしろ「意図的な犯行」を指す表現に近いです。こうした言葉の使い方は、メディアや娯楽作品の中でも広く見受けられるため、誤解が広がっている一因と考えられます。
確信的犯行とは？
それでは、「確信的犯行」とはどのような意味でしょうか。この言葉は厳密には法律用語ではありませんが、一般的には「犯行を意図的に行うこと」、つまり「計画的な犯行」を指すために使われることが多いです。犯人が自身の行動が法律に反していることを理解し、かつその結果を予測した上で行動に及んだ場合、それは「確信的犯行」と表現されることがあります。
例えば、銀行強盗を計画し、そのための準備を入念に行った上で犯行に及んだ場合、それは「確信的犯行」と言えるでしょう。この場合、犯人は自分が行っている行為が違法であり、捕まるリスクも承知の上で行動しているわけです。このように、「確信的犯行」は、計画的であり、かつ行為の違法性を十分に認識している場合に使用される表現です。
確信犯と確信的犯行の違い
さて、ここで改めて「確信犯」と「確信的犯行」の違いを整理しましょう。
- 確信犯：信念や道徳的価値観に基づいて、違法であると知りながらも行動する犯罪者を指す。行為者はその行動が違法であると認識しつつ、自分の信念や理念を優先しているため、罪の意識を感じていないことが多い。
- 確信的犯行：犯人が違法行為であることを理解し、それを意図的に、計画的に行うことを指す。行為者は法律違反を認識しているが、信念や理念に基づいているわけではない。むしろ、利益や自己の目的を優先して行動している場合が多い。
こうして見てみると、確信犯はその行為が道徳的に正しいと信じているために行動するのに対し、確信的犯行は利益を追求したり、計画的に法律を無視したりするという違いがあることが分かります。
なぜこの違いが重要なのか？
「確信犯」と「確信的犯行」の違いを理解することは、日常的なコミュニケーションにおいても重要ですが、特に法的な文脈においてはその違いが非常に大きな意味を持ちます。法律では、犯行の動機や意図が刑の重さに大きな影響を与えるため、確信犯であるかどうか、または確信的犯行であるかどうかを正確に区別する必要があります。
例えば、ある犯罪が信念に基づいて行われた場合、裁判においてはその信念や背景が考慮されることがあります。一方で、単なる利益追求のための計画的犯行であれば、その行為の計画性や意図が厳しく問われ、より重い罰が科されることもあります。
まとめ
「確信犯」と「確信的犯行」は、その言葉の使われ方が日常と法律で異なるため、混同しがちな用語です。しかし、それぞれの意味を正確に理解することで、誤解を避けるだけでなく、より正確なコミュニケーションが可能になります。特に、法的な場面では犯行の動機や意図が大きな影響を与えるため、この違いを理解しておくことが重要です。今後、日常的な会話やメディアで「確信犯」という言葉が出てきた際には、ぜひその文脈と本来の意味を思い出してみてください。