正月の話 三十四話「感謝感激
AIが進歩し、人々の生活が激変したことで神様の仕事がなくなった。なかでも感謝の気持ちが通貨に変わったことが人類史上最大の革命となった。ことの発端はピアスロボットが登場したことだった。ピアスロボットは脳波によって作動するスマホのような受発信装置で、もともとは体が不自由な人とのコミュニケーション用に開発された。その後、他人の体験を疑似体験できるアプリが開発され深層意識でのコミュニケーションが可能になった。深層意識でのコミュニケーションで人がもっとも至福を感じ取ることができるのが「感謝」の気持ちであった。そのため人々は感謝の気持ちを求め、また発信することを最大の喜びとするようになっていった。そのうち感謝の気持ちが物と交換できるようになった。感謝を得るために人々は働き、感謝を発信するために事物の創生に勤しむようになったのだ。もともと通貨は数字でしかない。しかし、感謝の気持ちは得るほどに、与えるほどに心が満たされる。人がみな、それによって幸福を実現したことで神様はすることがなくなってしまったのである。人々が幸せになり、閑散とした初詣に神様は少しばかり寂しいと感じるようになったそうである。(浪速百鬼絵 正月の話 三十四話「感謝感激」より)
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